コラム
- 2022.09.13
- 家族信託や遺言書の違いは?どちらを選ぶべきかについても解説
目次
家族信託と遺言の違いについてわかりやすく解説!
自身の財産について、生前にとれる主な対策方法には、
・家族信託
・遺言書
の2つがあげられます。
どちらがいいのかは、利用する方の状況や希望によって変わります。
この記事では、それぞれどのような特徴や違いがあるのか、また両方とも利用した場合どちらが優先されるのかなどを詳しく解説します。
家族信託とは
介護が必要になったり認知症などで判断能力が低下したりするなど、
自分で自分の財産を管理できなくなったときのために「信託契約」を締結して、自分の保有する財産の管理を家族に託しておく制度です。
家族信託の仕組み
財産の保有者が委託者となり、受託者(家族等)に財産管理を託します。
受託者は、信託契約に従って財産の管理または処分、およびその他の信託目的の達成のために必要な行為を行います。
そしてその財産管理によって発生する利益は受益者が受け取るという仕組みです。受益者は委託者が兼ねるのが一般的です。
例えば、財産を保有する親(委託者)が、財産の一部を信託し、その管理を子(受託者)に任せます。
委託者が受益者も兼ねることで、財産管理は子が行い、その利益は親が受け取る、というケースがあげられます。
信託財産の所有権は、名義上、委託者から受託者に移されますが、受託者には、「受益者の利益のために忠実に責務を果たさなければならない」という忠実義務があるため、受託者が勝手に信託財産を処分することはできません。
遺言書とは
被相続人(亡くなった方)が、本人の死後、財産を
・誰に対し
・どのように分配するか
などについて、最終的な意思を表示した書面です。
遺言書に効力を持たせるためには、法律で決められた方式で作成されている必要があります。
遺言書を作成しない場合はどうなる?
法定相続人が遺産を相続します。不動産や動産、有価証券などは、相続人全員で遺産分割協議を行い、現金などは、法定相続分に従って分割されます。
遺言書があれば、遺留分(※)を除いて被相続人の意思通りに財産を承継させることができます。
※遺留分とは、民法で定められた、法定相続人に最低限保障される遺産の取り分のこと
家族信託と遺言書の違い
①効力の発生時期
家族信託は、信託契約で「いつから効力を発生させるか」を自由に決めることができます。
信託契約の締結と同時に財産管理を始めることも、条件をつけて開始時期を決めておくこともできます。
例えば、親が元気なうちは親が自ら財産管理をし、親の判断能力が低下した時点で子に財産管理を任せる、という条件をつけることも可能なため、認知症に備えた対策として活用することができます。
一方遺言書は、遺言者(遺言書を書いた人)が亡くなることにより効力が発生します。遺言者が生きている間は、遺言書の内容を書き換えることはできますが、相続人(となる人)に財産を移転させることはできません。
そのため、認知症に備えて財産をあらかじめ家族に移すといった対策はできません。
②二次相続以降の承継者の指定
家族信託では、委託者兼受益者が亡くなった後も家族信託は終了させず、第二受益者、第三受益者と受益権を移せる契約内容にしておくことにより、数世代に渡った財産の承継先を指定することができます。
例えば、子どもがいない夫婦で、「自分が亡くなったら妻に、妻が亡くなったら甥に財産を承継させたい」というケースです。
委託者権受益者である夫が亡くなった場合、第二受益者を妻に、第二受益者である妻が亡くなった場合は第三受益者を甥に、と指定しておくことができます。
甥は妻の相続人ではないので、何もしなければ、妻が亡くなったときに財産は妻側の親族へと相続されます。
一方遺言書は、自分(遺言者)の次に誰が財産を相続するか(一次相続)を決めることしかできません。仮に、その次の相続(二次相続)について記載していても効力はありません。
③死後の財産の管理、処分方法についての指定
家族信託は、委託者の意に沿った信託契約に従って、受託者が財産の管理・処分を行います。
例えば、委託者が父親で、受託者を長男、受益者を母親に設定したとします。
委託者が「賃貸アパートは売却せず、その賃料を母親に給付するように」と指定した場合、受託者は、賃貸アパートを勝手に売却することはできません。
つまり、委託者が亡くなった後も、母は賃料の給付を受け続けることができるのです。
母が亡くなった時点で信託契約が終了すれば、賃貸アパートを相続した長男は自分の意思で売却ができます。
一方遺言書は、財産の相続先や分配方法を指定することはできますが、具体的な財産の管理、処分についてまでは指定できません。
収益物件として保有していた賃貸アパートを長男に相続させた場合、その賃貸アパートを所有し続けるか売却するかは、相続した長男が決めることになります。
④内容の変更方法
遺言書は、本人の意思により作成されるものなので、作成後でも本人が生きている間であれば、法律で定められた要件での手続きを踏むことで、何度でも変更することは可能です。
一方、家族信託は、委託者と受託者、受益者で締結する契約なので、その契約内容を変更するためには、原則としてそれぞれの同意が必要となります。
家族信託と遺言書の違い | ||
家族信託 | 遺言書 | |
効力の発生時期 | 信託契約で定めた時期 | 遺言書が亡くなった後 |
二次相続以降の継承者の指定 | 〇 できる |
× できない |
財産の管理、処分方法についての指定 | 〇 できる |
× できない |
【参考】遺言代用信託とは
信託銀行等に自身の財産(金銭に限られる)を信託し、生きている間は自身を受益者として管理・運用してもらい、亡くなった後は、配偶者や子どもなどを受益者に定めることで、財産を引き継ぐことができる信託です。
通常、自身が亡くなると、その銀行口座は凍結されてしまいます。そこで遺言代用信託を利用し、自身が亡くなったら
「口座から葬儀費用として〇〇円を配偶者に振り込む」
「未成年の子どもに毎月の受取額を決めて振り込む」
などと指定することで、スムーズな財産承継が可能になります。
この信託は、自身が亡くなった後の受益者を配偶者や子などに設定でき、その時期が遺言で財産を承継する時期と同じであるため、遺言に似ています。また、遺留分を超える分配ができない点も遺言と同じです。
しかし遺言では相続人全員が遺言の内容に不満である場合、内容を実行せず撤回することが可能ですが、遺言代用信託では、信託内容が撤回されることはありません。その確実性に違いがあります。
家族信託と遺言書、どちらが優先される?
家族信託、遺言書ともに、自身が生きている間に財産の承継先を決めておくことができます。
どちらも利用していた場合、内容に差異がなければ問題ありませんが、作成時の状況などにより内容が異なっている場合もあります。
その場合、原則として家族信託が遺言書よりも優先されます。
法律では、特別法は一般法に優先するという考え方があります。家族信託は民法の特別法である信託法に基づく法律であるため、一般法である民法に基づく遺言書の内容より優先されると考えられます。
ただし、家族信託はあくまで信託財産のみが対象なので、信託していない財産について遺言書がある場合は効力を発揮します。
家族信託と遺言書、どちらを選ぶべき?
家族信託を選ぶべき | 遺言書を選ぶべき |
・生前から家族に財産管理を任せたい |
・死後の財産の行き先を決めておきたい |
【家族信託を選ぶべき】
・生前から財産管理を家族に任せたい
認知症になり判断能力が低下しているとみなされた場合、自分の財産を自分で管理することができなくなってしまいます。
そこで、将来、認知症になった時に備えて、介護費用や入院費、治療費などを財産から支払えるようにしておきたいといった場合は、生前から財産管理を家族に任せる家族信託が有効です。
遺言は、生前についての効力は何もありません。
・二次相続まで指定したい財産がある
「先祖代々継いでいる土地や家屋があり、それを子どもや孫にも引き継いでほしい」
「自分の財産を配偶者に承継し、配偶者が亡くなった後は障がい者である次女に承継させたい」
など、自分の相続の次の相続(二次相続)まで財産の行き先を決めておきたい場合は、家族信託が有効です。
遺言では、相続する人を指定することはできても、相続人がその財産を売却してしまう可能性もあります。
【遺言書を選ぶべき】
・死後の財産の行き先を決めておきたい
自身の財産について、「自宅は長男、金融資産は長男と次男で1/2ずつ相続させる」など、相続先だけを決めておきたい場合は遺言書が有効です。家族信託は、遺言書の作成よりも費用がかかるので、このような場合は遺言書で十分です。
また「遺言書は大袈裟だ」と思う方もいるかもしれませんが、相続する財産がほとんどないケース以外では、しっかり明記した遺言書を作成しておきましょう。遺産は些細なことでもトラブルのもとになる可能性があります。
・相続先を家族に知らせず決めたい
子どもたちの仲が悪いなどの場合、生前に財産の行き先が知られてしまうとトラブルになる可能性があります。このような場合は、誰にも知られずに作成できる遺言書を作成するとよいでしょう。
家族信託・遺言書のご相談は司法書士へ
ここまで家族信託と遺言書について解説してきました。
家族信託や遺言書は生前対策として有効です。
しかし、
「自分はどちらを利用すればいいの?」
「元気なうちに対策しておきたいけど何をすればいいのかわからない」
といったお悩みをよくいただきます。
当事務所には、家族信託の経験豊富な司法書士や、遺言書作成の実務に精通している司法書士が揃っており、個々のお客さまの状況に寄り添ったご提案をさせていただいています。
生前対策でお悩みの方はもちろん、家族信託や遺言書について知りたい方も、お気軽にご相談ください。
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