コラム
- 2022.09.13
- 成年後見人の業務について詳しく解説~後見開始から終了まで
目次
成年後見人の業務とは?大きくわけて2つある!
成年後見人という言葉は聞いたことがあっても、その業務内容や具体的な仕事については知らない人が多いかもしれません。
成年後見人の業務には、大きく分けて「財産管理」と「身上監護」の2つがあります。
ここでは、それぞれについてわかりやすく解説します。
また後見開始時・終了時に行う業務や特別なケースで行う業務についても紹介します。
成年後見制度の理念と仕事内容
成年後見制度は、判断能力が低下している人の保護を目的として平成12年4月に導入されました。
この制度には、3つの基本理念が掲げられています。
①自己決定の尊重
本人が自分の意志で決める事柄や、希望する生き方を尊重すること。
②残存能力の活用
判断能力が低下していても、いま本人が持つ能力を最大限活用すること。
③ノーマライゼーション
障がいの有無にかかわらず、家庭や地域で安心して暮らせること。
後見人はこの理念のもとに、本人(被後見人)のために「財産管理」と「身上監護(身上保護ともいいます)」を行います。
成年後見人の業務①財産管理
本人に代わり、預貯金や不動産、株式など財産の管理を行います。
成年後見人には、日常生活における金銭管理から、不動産など重要な財産の管理・処分、納税などの税務処理まで、とても広い範囲の代理権があります。
原則的には「財産の維持」が目的ですが、必要に応じて「財産の処分・売却」を行うこともあります。
【成年後見人の財産管理業務一例】
財産管理の内容 | 具体例 |
①現金や預貯金の管理 | 帳簿に収支を記録する、年金の請求・受け取り など |
②不動産の管理・処分 | 権利証の管理や自宅周りの見回り・修繕、家賃の収受 など |
③株式や有価証券の管理 | 配当金収入や残高証明書の受け取り など ※売買などの取引は行わない |
④税務処理 | 住民税や固定資産税等公租公課の支払い など |
⑤自動車の管理 | 一時抹消登録や売却 など |
⑥遺産相続の手続き | 本人に代わって遺産分割協議に参加する など |
①現金や預貯金の管理
成年後見人が行う財産管理のもっとも基本的な業務です。
年金の収入や公共料金の支払い、日用品の購入など、細かい収支をすべて帳簿に記録します。
年金が予定日に振り込まれていない場合は、年金事務所に確認します。
本人の財産状況は、毎年家庭裁判所に報告します。
②不動産の管理・処分
自宅など不動産の権利証の管理や、収益不動産を所有している場合の家賃の収受などを行います。
基本的に本人の財産を成年後見人が処分することは認められていませんが、本人の入院費や施設入所費に充てるために売却せざるを得ないことがあります。
このような場合は、事前に居住用不動産の処分許可を家庭裁判所に申し立てます。
自宅の管理
本人が施設に入所している場合、いつでも自宅に戻れるよう「住める状態」を維持する必要があります。
修繕が必要な場所があれば、業者へ連絡し修繕します。
自宅に当面帰る予定がない場合は、電気や水道などはいったん解約しておきます。
収益不動産の管理
家賃の収受のほか、入居者とのやり取りや建物の修繕などを行います。
本人が複数不動産を所有している場合、不動産会社に管理を委託することもあります。
③株式や有価証券の管理
本人が株式を所有している場合、毎年残高証明書を取り寄せます。これは、配当金収入など財産状況を家庭裁判所に報告する際に必要になります。
なお、基本的に株式の売買などは行いません。
④税務処理
所得税や住民税、固定資産税など、税金の申告・納税を行います。
⑤自動車の管理
自動車に乗らない場合、自動車税がかかるのを防ぐために一時抹消登録をします。
なお、自動車の売却は「生活費や医療費捻出のため」であれば後見人が行えますが、高級車の場合は資産価値があるため家庭裁判所に相談します。
⑥遺産相続の手続き
親族が死亡し、遺産相続や遺産分割協議がある場合は本人に代わって行います。
成年後見人の業務②身上監護
本人が安心して暮らせるよう、生活や健康に配慮した契約を行います。
本人の「身を守るための法律行為を行う」ことが基本になり、食事や入浴の介助など事実行為は含まれません。
【成年後見人の身上監護業務一例】
身上監護の内容 | 具体例 |
①医療に関する手続き | 病院での治療同意書の作成や、入院の手続き など |
②介護サービスの検討・手続き | 介護保険の認定申請や施設探し、契約の締結 など |
③施設への入退所手続きと監視 | 介護施設へ入所する場合の入所契約や施設への訪問 など |
①医療に関する手続き
病院での治療や入院の手続きなど、申込書や保証書・同意書といった契約が発生する法律行為を行います。
病院への付き添いなどは事実行為になるため含まれません。
②介護サービスの検討・手続き
介護サービスは自宅で受けるものと施設で受けるものの2種類があります。
いずれにせよ、ほとんどの場合は要介護認定を受けている必要があるので、まだ認定されていない場合は申請します。
そのうえで、利用する介護サービスが決まったら申し込みをします。
③施設への入退所手続きと監視
本人が介護施設に入る必要がある場合、施設探しや入所契約、本人の生活状況把握のため施設への訪問を行います。
施設で生活する上で何か不利益なことがある時は、施設への改善を求めます。
成年後見人の業務は、開始時・特別な場合・終了時の3つに分けられます。
それぞれ詳しく解説します。
成年後見人の業務の流れ|後見人開始時に行う業務
①本人や関係者との確認作業
本人の健康状態や今後の意向、財産状態などを話し合い、今後の方向性を確認します。
これによって、医療行為の必要性や生活環境の整備状況、生活費に回せる金額などを把握します。
②財産調査・財産目録の作成
本人の財産をまとめた財産目録と、生活費や税金の支払い額などをまとめた年間収支予定表を作成し、家庭裁判所に提出します。
そのため、以下の5つをメインに詳細な財産調査を行います。
・預貯金や借入金
・不動産
・株や有価証券
・保険
・車や骨とう品などの動産
上記を調査するにあたり、現金や通帳、有価証券、不動産権利証、実印、銀行印、印鑑登録カードなど、財産にかかわるものすべてをそれまで管理していた人から受け取っておきます。
また銀行や保険会社、年金事務所、税務署に、後見人になった旨を届け出ます。
財産目録や収支予定表は、裁判所のホームページからダウンロードできます。
③日常的に行う業務
財産の報告が完了したら生活プランを立て、以下のようなことを日常的に行います。
・日常的な収支の金銭管理、預貯金の入出金確認
・不動産や有価証券などの財産管理
・税金など公租公課の支払い
・本人の生活状況把握、意思確認
生活プランは、財産目録とあわせて作成する年間収支予定表に基づいて立案します。
成年後見人の業務の流れ|特別な場合に行う業務
通常時は成年後見人の業務①②で紹介した業務を行いますが、以下の2つのように、特別な場合に行われる業務もあります。
①不動産の売却
本来、成年後見人は本人の財産を処分することはできません。
しかし、「生活費の確保」や「医療費の捻出」などの理由がある場合は、成年後見人による不動産の売却が可能です。
居住用不動産の場合
本人の居住用不動産ならびに将来居住する可能性のある不動産を売却する場合、家庭裁判所の許可が必要です。
仮に無許可で売却した場合、その売買は無効になります。
非居住用不動産の場合
非居住用不動産の場合は、家庭裁判所の許可は不要です。
ただし生活費や医療費の捻出などの正当な理由があり、かつ売却価格についても不当な金額でないことが条件です。
②相続時の特別代理人申し立ての手続き
成年後見人と本人(被後見人)の間では、利益相反行為は禁止されています。
利益相反行為とは「両者の間で利益が相反する行為のこと」で、形式的に見てお互いの利益がぶつかることをいいます。
もっとも多いケースは、相続時です。
例えば、兄が被後見人で、弟が兄の成年後見人になっているケースで親が死亡すると、兄弟はともに親の遺産の共同相続人になります。
成年後見人の立場では兄の相続割合の最大化を目指す必要がありますが、一方では自分も相続人として相続割合の最大化を目指す権利があります。
これが、利益相反です。
このような場合、成年後見人が相続放棄して利益相反行為を解消するか、後見監督人がいれば後見監督人が本人の代理の立場で遺産分割協議を行うなどの方法があります。
これらの方法が取れない場合、家庭裁判所に特別代理人の申し立てを行います。
特別代理人(兄の代理)と成年後見人(弟)の間で遺産分割協議が行えるようになる、というわけです。
成年後見人の業務の流れ|後見終了時に行う業務
本人が死亡、もしくは成年後見人の解任などにより成年後見が終了する時は、財産の引き渡しと法務局への終了報告を行います。
【財産の引き渡し】
今まで作成していた財産目録と同じ書式で目録を作成し、家庭裁判所に提出します。本人が死亡した場合は、死亡診断書や死体検案書のコピーも提出します。
すみやかに相続人もしくは次の後見人に財産を引き渡しましょう。
【終了報告】
本人死亡による後見終了の場合、法務局へ成年後見終了登記を申請します。解任の場合は家庭裁判所が法務局に後見終了を報告します。
成年後見制度について詳しく知りたい方は司法書士へ
・成年後見人になった場合、どのようなことをするのか
・自分のケースでは成年後見制度を利用する必要があるか
・家族信託などほかの制度もある中でどれを選択すればよいか
など、わからないこと・迷うことがたくさんあると思います。
そのような時は、専門家である司法書士にご相談ください。
ご自身のケースに最適な制度の利用や手続き方法など、豊富な実績をもとに最適なご提案をさせていただきます。
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